第25話 「ときめきの願い」

前回までの盛り上がりから、グワーッと来る深い感動を期待していたわけだけど、意外に軽い展開にいくらか拍子抜けだった。その最大の原因は陸の後悔の苦しみがほとんど描かれていなかったことだろう。これまでの陸の曖昧な態度は必ず人を傷つける結果に終わってしまうことはわかっていたわけで、明らかに非難されるべきものであり、それがこんなに軽い後悔だけで済まされてしまうとは思わなかった。さらに陸に選ばれなかった二人の苦しみは、これまでの二人の思いの表現は強烈なものもあっただけに、もっと印象深い演出で長い間描かれると予想していたのだが、これも意外に短い間で必要なだけの描写で終わってしまった。それらの変わりにに卒業式のシーンや、先生達や友人達などとのシーンは長かったわけだが、これも別れの辛さが特に強調されることなく、いつも通りの描写とあまり変わらない印象だった。総じて特に最終回らしい深い感動を生むようなつくりではなかったように思える。

だからと言ってがっかりしたと言うわけでもない。今回の話は深い感動を作り出す強烈な印象はなかったけど、「型通り」の脚本で作られていたように思う。例えば最後の小百合のセリフは、どうしてもゲームのときメモのラストの告白シーンを彷彿とさせるようなもので、どこかで聞いたことのあるセリフであるという印象しか受けなかった。このセリフは具体的な脚本を書く以前に決まっていたんじゃないかと言う感じまでする。陸の態度の軽さも、ゲームの宣伝アニメである都合上あまり個性的にできなかったということではないだろうか。エンディングの伝説に結び付けてきれいに終わらせるような手法もどこかで見たことのある型通りの言葉という印象を受けた。

しかし型通りだからと言って必ずしも悪いと言うわけではなくて、使い古されたパターンと言うのはきちんと見せれば何度でも新しい感動を生むもの。小百合の告白のシーンは、セリフが普通だった代わりにそれを言う時の背景美術や画面の構図なんかは非常に凝っていて感動的だった。制作者はセリフに関しては大人の事情で変えられないからセリフ以外の部分で表現しようとしていたんじゃないかという邪推もしたくなってくる。話の前半では、画面の構図を不安定にすることによって不安感が良く強調されていたし、アクションシーンは量はそれほどなかったけど最終回らしく見応えのあるものだったりと、特に深みのない脚本の中でも最終回らしい良さは十分にあったとも言える。もちろんこれまで積み上げられてた来た主要キャラ達の思いがあるから、どんなに今回の話が薄かろうと彼らに共感せずにはいられない。

こんな風にごく当たり前のパターンを十分な演出で見せて終わらせたからこそ、印象としては非常にすっきりしてるんだと思う。必用十分の感動とでも言えばいいだろうか。これまでの話では過剰にキャラ達の感情が強調されていたこともあったけど、終わりがこうだから心残りがない。明日からの生活に影響を与えるようなこともない。これはこれで生活に侵入してこない物語のあり方としていいんじゃないかと思う。

シリーズ全体としては、まず何よりも水奈とつかさの本気で恋する思いが十二分に表現されていて、恋愛物としては今期ダントツの面白さだった。サブキャラ達の個性が存分に発揮されたギャグパートも毎回非常に楽しかった。作り手が楽しんでいるのがものすごく伝わってきた。毎回そのサブキャラ達のギャグをこなしながらも十分に見せるところは見せていた脚本、キャラ達の感情表現を効果的に助けていた演出、美しくもキャラ達以上に目立っていはいない背景美術。学園祭やら修学旅行などのラブコメ定番のイベントの数々がシリーズの方向性から外れずに楽しく描かれていたのも良かった。キャラデザや設定は最近の流行から少し外れたようなところもあったが、大きな視点から見ればオーソドックスな学園物ラブコメとして秀逸の出来だったと思う。

脚本:渡辺陽 絵コンテ:高本宣弘 演出:高本宣弘 作画監督:中原清隆/永田正美