林原めぐみ「A Happy Life」

A Happy Life
貧乏なので滅多にCDは買わないんだけど、がくえんゆーとぴあのOPのこの曲は林原めぐみの淡々と歌うボーカルが印象強く珍しく購入。淡々と歌っているのにメッセージが心に響いてくるのはさすがベテランの声優兼歌手の実力。林原めぐみ全盛の頃はそんなにアニメを見ていなかったので復帰にそれほど感慨があるわけでもないけど、実力のある声優には是非活躍して欲しい。

この曲は作詞作曲が故人の岡崎律子なので新アニメのOPに使われるのは不思議だったが、アキバOSの記事に引用されているインタビューによるとこの曲は林原めぐみ自身が親友である彼女の既存の曲の中から選んだものらしい。「女の子達が元気にクルクル動き回る姿に、かつての「ラブひな」を少し重ねたような気もします。」とのことで、そういえばがくえんゆーとぴあは岡崎律子の楽曲で林原めぐみボーカルのOP+堀江由衣主役の青春ものという点ではラブひなと同じ。

ラブひなのOP「サクラサク」はおもちゃ箱をぶちまけたようなはじけた雰囲気のラブソングで、ドタバタラブコメのOPとしてはこれ以上なほどふさわしい曲だった。林原めぐみはそれをパンチの利いたボーカルで元気に歌っていたが、この落ち着いた曲を淡々と優しく子供を諭すように歌っている今の彼女は打って変わって結婚と出産を経ての人間としての成長を感じさせる。「あとでわかるよ 全ての意味が いまはわからなくても」という歌詞はそんな彼女だから強い説得力がある。

あとこの曲の歌詞について一つ。以下冒頭の歌詞。


ほら 振り向いても もういないよ
チャンスなんてね そんなものだと
あおられても 動けない時だってあるの

そう これも全て 君のために言うことだよ
でもゴメンネ 納得しないこと
簡単にはうなずけない

この曲の歌詞にはメッセージを「諭す側」と「諭される側」の二つの立場がある。「そう これも全て 君のために言うことだよ」は諭す側の言葉で、それを受けて「簡単にはうなずけない」と答えるのは「諭される側」の立場から。しかし「ほら 振り向いても もういないよ」は、明らかにメッセージを「諭す側」の言葉だが、次の行の「チャンスなんてね そんなものだと」は、「チャンスなんて そんなものだ」で終わる前の言葉に続く「諭す側」の言葉であると同時に、「〜だと」から次の言葉の「あおられても 動けない時だってあるの」に続く「諭される側」の言葉でもある。つまり二行目が前と後の二重の立場から言われていて、「あおられても〜」を聞いたときに前の言葉の立場が決定できなくなり、さらに最初の行の言葉も「諭される側」のものであるかのような錯覚を起こし、不安定な印象を受ける。これによって曲の雰囲気に心地良い浮遊感を与えると同時に、伝える側と伝えられる側の距離がマイナスの矛盾した立場からの独特のメッセージが生まれている。次のフレーズも立場の転換が不分明に行われていて、曲全体を通してもこの立場が曖昧なものとなっている。アニメのOPがこの曲に絶妙に合ってるように見えるのは、この浮遊感が不安定さを狙った映像と良く合ってるからじゃないかと思う。