第5話 「ときめき色の星空」

新月だから・・・星、よく見える。」

あーもう素晴らしすぎる。これほどにベタに恋愛の表現をやって成功した作品がこれまであったでしょうか。

まず音響と美術によって夏の海や自然の空気感が見事に表現されていて、青春物語の舞台としての役目を十二分に果たしている。特に星空は美しく、物語の小道具としても活用してあって、それだけでも感動をうみそうなぐらいだった。虫の声や海の音なども適所に配してあって、青春の季節としての夏の雰囲気を十分に作り出していた。

それから構成。新キャラのノナや、修学旅行の定番イベント、新月といった特殊な要素を自然に使って、すももと石蕗の微妙な心の動きが丁寧に表現されていた。野外炊飯や風呂、パジャマパーティといったそれぞれのイベントにおいて、それ自身の楽しさを十分に表現しながら、二人のお互いの思いの進展が同時に表されていて、話の展開が自然でかつメインのテーマから逸れたという印象を受けない。

原作ではもしかしたら新月で初めて二人が夜に人間として面と向かう問うことで、何か性的な展開があったのかもしれないが、それを今回のような、静かな夜の空気感の中で、星空の下に打ち解けた会話をするという展開に変えたのなら見事。そうでなくてもゆっくりとした時間の中で自然な感情の動きが感じられる見事な美しいシーン。

しかしなんといっても二人の距離感が近づきそうで近づかない、このもどかしくもリアルな関係性がすばらしい。夜の海のシーンでも、二人の距離は近づいて、わかりあえたか、と思うんだけど、それでもすぐに距離を広める要素が現れてきて、なかなかうまくいかない。結局相手の気持ちを言葉にして聞いてないから、どんなに近づいてもほんの少しの障害ですぐにまた離れてしまう。しかしそう簡単には自分の気持ちを言葉にして伝えることもできない。

アニメ的な作品のあり方が批判されるべきところは、オタクの妄想に従った虚構性の強い世界観が作られてるということではなくて、キャラクター間に簡単に相互了解が成立してしまうところにある。つまりは他者性が存在しないということで、そこには調和しかなく、発見も成長もありえない。しかしこの作品のあり方ように相互了解の難しさをリアルに表現すれば、このようなファンジックな世界観でも人間のあり方の理解に結びつく何かを見つけることもできるし、それが受け手にとっての成長に結びつくこともある。

これからこの二人がどんな風な解決を見つけ出すのか、非常に期待。作画もこれまでの調子が続けば、大丈夫だと思う。(どんなにテーマがすばらしく、演出が見事でも、作画が不安定だったらそれだけでリアリティは落ちてしまう。特にこの作品はこれまで安定していたから、今後の不安定さが与える影響は大きい。)